笑顔を浮かべることで、心をコントロールする。

アイスホッケー女子日本代表が、2月12日に見事最終予選を突破し2大会連続3回目の五輪出場を決めました。日本では全競技を通じて平昌五輪への切符獲得一番乗りとなりました。  日本では野球やサッカーなどに比べ、アイスホッケーはマイナースポーツであるのが現状です。しかしアメリカのNHL(アメリカのプロホッケーリーグ)は野球、バスケットボールに並ぶ3大スポーツとして国民から親しまれています。「氷上の格闘技」と呼ばれ、スピードとチームワークの攻防が繰り広げられるアイスホッケーは、観客も選手と一体となって盛り上がる魅力的なスポーツで、日本でも女子代表チームの五輪出場が決まり注目が集まっています。



 アイスホッケー女子日本代表チームの強さの大きな理由の1つに、まず『笑顔効果』が挙げられるでしょう。みなさんご存知の通り、アイスホッケー女子日本代表の愛称は『スマイルジャパン』です。なぜ彼女たちは笑顔にこだわるのか、笑顔にどのような効果があるのか考えてみます。
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数年前、身体心理学の春木博士と『心と動き』について研究会を行いました。春木博士は人間にはいくつか身体と心をまたぐレスペラント反応群があり、そこは身体の動きから心の変化を起こせることをいくつかの事例を挙げながら説明してくださいました。表情はそのポイントの一つで、今回のアイスホッケー女子日本代表のスマイルのように意志を持って笑顔を作ることで心に影響を及ぼすことが明らかにされています。いくつかのリサーチでは、笑顔(すなわち口角が横上に広がる顔面反応)を意志的に行うとポジティブな感情やリラックスした気分を引き起こすことがわかっています。また表情の一部である視線は下に向けているとうつうつと沈んだ気分になります。これらをもとにスポーツ心理学として考えてみると以下のようなことが考えられます。







①笑顔を浮かべることによって、「その状況を楽しもう」というポジティブなエネルギーが生まれる



 スマイルジャパンは、12年からコーチに就任した元カナダ代表のカーラ・マクラウドさん(06年トリノ五輪、10年バンクーバー五輪の金メダリスト)がこの愛称に決定したと言われています。カーラコーチは「何事も楽しめば良いパフォーマンスができるということです。笑顔でプレーしていれば、緊張して固くなってしまうことはない。その経験を“楽しむ”ことはもっと重要なことです。」と伝えています。ポジティブな考えの重要性が浸透し、実際に笑顔というレスポラント反応群のアクションを加え意識とメンタルをつなげたことが、チームに好影響を与えたのではないでしょうか。







②笑顔を浮かべることで、自分達の「コントロール感」を高められる



 うまくいかない時、自然に下を向いてしまったり、できないことばかり考えて不安が先行することがあると思います。スマイルジャパンは、どんな状況でも笑顔でいることで、自分たちで自分の気持ちをコントロールしており、その状況でも気持ちをどう持っていけばいいのか考えることができているという実感を高めています。これによって、どんな状況でも「できること」に目を向け冷静な判断ができるようになります。







③うまくいかない状況でも、笑顔を浮かべることが気持ちを切り替える「スイッチ」となる



 スマイルジャパンは、ソルトレーク五輪、トリノ五輪、バンクーバー五輪の3つの最終予選最終戦で敗退し、五輪の切符を逃してきました。ソチ五輪最終予選では負けたらまた五輪を逃すという重要な1戦で、0-3のビハインドでむかえた第2ピリオド後のロッカー室、選手たちの表情は明るかったそうです。その後、4-3で逆転勝利をおさめソチ五輪の切符を手にしたそうです。選手達は「勝てる自信はあった」「負けたら・・・なんて誰も考えてなかった」とビハインドの状況を振り返っています。ロッカールームでの互いの笑顔が、ビハインドの状況から気持ちを切り替える後押しをしたのではないでしょうか。







④「笑顔」が「チーム文化」となり、「笑顔」がチームを「団結させるキーワード」となっている



 スマイルジャパンは、チームスタッフ・選手全員が「笑顔」を普段から浸透させ、重要な場面で必ずこのキーワードを使っているようです。



・五輪予選の直前の強豪チームとの重要な練習試合前、監督は「失点をおそれなくていい、笑顔でプレーしよう」と選手に声をかけた。



・最終予選の控え室のホワイトボードに選手が「笑顔でペコしよう」と書いた。(ペコ:スマイルジャパンのトレードマークでもあるゴール後の「おじぎポーズ」)



・最終予選の決戦前、コーチは選手たちを送り出す時にグータッチをして、ひとりひとりに

「SMILE」と声をかけた。



何度もこのキーワードを出して行動していくことで、「笑顔」の意味に共通認識が生まれ、チームがまとまるために欠かせないものになっているのではないでしょうか。







 以上の4点を「笑顔の効果」として検討しましたが、スマイルジャパンがこのように笑顔になれるのは、もちろん普段懸命に努力しているからこそ、逆境に立たされた時でも、楽しもうと思えるのです。過去に出場は果たしても、未だ五輪での勝利は手にしたことがないスマイルジャパンですが、初のメダル獲得を目指し笑顔で戦い続ける彼女たちの活躍に注目していきたいと思います。