【トップアスリートの考え方の技術 vol.1 ~自分の最高を引き出せる選手は何を見つめているのか?~】

今年の夏はパリ五輪が開催され、トップアスリートの競技やコメントを見聞きする機会が多かったのではないでしょうか。そして10月に入り、野球は、メジャーリーグも日本プロ野球も年間王者を決める痺れる試合が続き大変盛り上げっていますね。

常に勝負を争うスポーツの世界は、勝って注目を集める選手と、負けてその場を去る選手が明確になる厳しい世界です。そんな世界において頂点に立つような選手達はどのような「考え方の技術」を持っているのか気になりませんか。

スポーツ心理学は多くのアスリートの事例を研究しながら、それを分析してきた知の遺産が蓄積しています。そしてそれらは、スポーツの場だけでなく、ビジネスや教育分野でも活かされています。そこで、このコラムではその中でも大変重要な技術の一部を「トップアスリートの考え方の技術」としてコンパクトにまとめ、シリーズ化してお伝えしていきます。

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オリンピックやパラリンピック、また年間優勝を決める決勝戦などの重要な試合を前にした選手がインタビューに答えている様子を、テレビで見たことがあると思います。インタビュアーは試合を前にした選手に、対戦相手に対するコメントを求めたり勝利を宣言するようなコメントを期待したりしますが、一流の選手であればあるほど

「明日は自分の持っている力を出し切るだけです」

などと、冷静に答えています。超一流と言われる選手ほど、自分をどうコントロールするかというコメントに終始しています。

それは頂点まで上り詰めたアスリートが「自分がコントロールできるのは自分だけで、それが勝利に最も必要なこと」ということを知り尽くしているからなのです。

私はこういったコメントをするアスリートの考え方を「縦型比較思考」と呼んでいます。

「縦型比較思考」とは何かというと、その説明をする前にイメージしやすいように「横型比較」についてお伝えします。

「横型比較思考」は周りと自分を比べて考える思考のことです。スポーツの世界でもビジネスの世界でも、誰かに負けたくない、周りの活躍が気になるという思いは横型比較思考から生まれる考え方といえます。

それに対し「縦型比較」は、比較する対象は周りではなく、「なりたい将来の自分」です。将来の最高の姿をイメージし、その最高の姿に対して現在の自分がどのような状態なのかを把握し、自分の最高の姿に近づくためにはどうしたらいいかを常に考える思考法です。

世界で戦う一流のアスリートは、勝利や敗北の経験から勝利をつかむ最大の鍵は自分の能力を最大限に発揮することであり、そのためには、自分ではコントロールできない天候・グラウンドコンディションなどの環境や、相手、審判など他人などに意識を向けエネルギーを費やすのではなく「自分のコントロールできることに集中することが大切だ」ということを知っているのです。



このように自分の最高を引き出すためには、縦型比較思考をすることが非常に重要ですが、実は自分の最高の将来像を描くだけではそこに到達できません。

ではどのような考え方をすることで到達できるのか。次回の「トップアスリートの考える技術 vol.2」で詳しくお伝えします。

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このコラムは、布施努 著「自分の最高を引き出す技術」から一部抜粋し作成しています。このコラムで記載された内容をを、より詳しく事例や解説などをまじえてお知りになりたい場合は、ぜひこちらの書籍をご一読いただければと思います。
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