2024年シーズンは、ドジャースの大谷翔平選手がナショナルリーグの最優秀選手、MVPに輝き指名打者として史上初めて、そして自身3回目となるMVPを受賞しました。打率・ホームラン・打点・盗塁のすべてで自己最高の成績をマーク。メジャーリーグの史上初の「50-50」の偉業を達成し、ワールドシリーズも制覇して、正に、自分の最高を引き出したアスリートの代表的な存在であると言えるでしょう。
しかしもともと2024年シーズンは、大谷選手にとって手術明けのリハビリの1年でもあり、選手としてベストとは言えない状態でした。こうした中、大谷選手はなぜ「最高の自分」を引き出すことができたのでしょうか。いくつか要因があると思いますが、スポーツ心理学の観点から考えてみたいと思います。
スポーツ心理学には「オートテリックパーソナリティー」という言葉があります。これは報酬や評価といった、外から与えられる目的のために行動するのではなく、自分が今現在行っている、その行動自体に喜びや楽しさを見出しやすい性格的特性を指す言葉です。
大谷選手は、“野球はこういうものだ”という固定した考え方がなく、自分の理想の姿に向けて毎年目標を設定し、成長し続けており、オートテリックパーソナリティーの特性が強くうかがえます。
そのもとになるのは自分の行動を決める力、「自己決定能力」です。
自己決定能力は、第1段階から第5段階まであり、“言われたからやる”から始まり、“重要だからやる”などの段階を経て、“楽しいからやる”という段階に達します。“楽しい”というのは、得意や楽という意味ではなく、課題について研究し、成長のための挑戦を続ける中で、その行動への面白さや興味を持てることを指し、大谷選手はこの第5段階に達しているのではないかと考えられます。
“人に言われたから”、“やらなければならないから”というような外発的な動機づけだけでは、それがなくなるとともにエネルギーも湧きにくくなりますが、“自分にとって重要だから”“楽しいから”という内発的な動機づけだと環境には左右されません。

こうした人は自分の理想の姿を設定し、さらに、「難しそうだけど、方法を考えたらやれるかもしれない」という小さな目標を立てて、仮説、実行、分析というサイクルを繰り返しながら目標をクリアするケースが多く見られます。
大谷選手の進化の要因は、どんな状況でもこうしたサイクルを心から楽しむ、「内発的動機に従って没頭している状態」になれるからではないかと考えられます。
そして、大谷選手の走塁に注目すると、大谷選手は今シーズン、マウンドに立てないという状況の中、キャンプから走塁の強化に取り組み、スピードアップのトレーニングや相手ピッチャーの研究などを続けました。その結果、盗塁は成功率を去年より17ポイントも上昇させて94%とし、その数も自己最多を大きく上回る59個となりました。
大谷選手はチームの勝利に貢献できる、走攻守でよりレベルの高い理想の野球選手への進化を目指し、マウンドに立てない今だからこそ、自分が没頭できる「自分がやるべきこと、やりたいことはなにか」を考えての盗塁への挑戦だったのではないかと考えられます。
すべての人が“大谷翔平”になれるわけではありませんが、アスリート以外の社会人にとっても、環境に関わらず、日々の行動を自己決定し、設定した小さな目標の達成を続けることで理想の姿に近づいていくという考え方は、ご自身の生活に応用できるのではないでしょうか。