トップアスリートの考え方の技術 vol.9 ~結果を導く可能性を最大限に高める「最高目標」と「最低目標」~


前回のコラムでは、目標設定スキルの内の一つ「ダブルゴール」の考え方を使うと、自分のパフォーマンスを高い状態に保ちやすく、最高の成果を導きやすくなること、その中でも代表的「大きな目標」と「小さな目標」についてお話ししました。今回は、試合中や本番など、パフォーマンスを高めたい瞬間に使う「最高目標」と「最低目標」について解説していきます。



前回お伝えした「大きな目標」と「小さな目標」が長期的な時間軸で語られるのに対し、「最高目標」と「最低目標」はその瞬間瞬間でのパフォーマンスの話です。例えばある試合で最高目標はできなくなってしまったとしても、最低目標は自分のパフォーマンスをあるレンジで維持するために使います。

例えばホームランを年間10本打ったことがある野球選手が、「今日は試合で長打を打つ」という目標を掲げることは、その選手にとって「最高目標」に当たるでしょう。私は様々なスポーツにおいて選手たちがこのような自己を奮い立たせるような高い目標を設定する場面に立ち会ってきました。このような挑戦的な目標を掲げることはその後のパフォーマンスを高めるために非常に重要です。

しかし残念なことに、目標設定をここで終えてしまう人も多いのです。「長打を打つ」と書いた紙を部屋に貼り出したり、ノートに書いただけでは目標を使いこなしているとは言えません。「今日は長打を打つ」という目標は、相手投手との勝負ですから、必ず長打を打てるかはわかりません。必ずしも、自分ですべてコントロールできない目標、言いかえれば結果目標にあたるものは、最高目標として設定してもいいですが、最高目標と同時に自分でいつでもどんな時でもコントロールできる内容で最低目標を設定しておくことが大切です。

最低目標の作り方として、例えば「長打を打つ」ためには「自分の設定した打つべきボールを狙ってフルスイングすること」が大切ですね。たくさんのことを意識して結局難しい球に手を出していたのでは長打は打てません。結果として長打が打てるかどうかはコントロールできませんが、「設定したボールを狙ってフルスイングすること」というのは100%自分でコントロールできるので最低目標として設定できます。さらにフルスイングするためには「腰の回転を速めるために速めにトップを作ること」を意識するなどの選手個別の技術的なポイントも自分でコントロールできるので最低目標として使うことができます。

加えて、最低目標を設定する上で気を付けなければならないのは、その目標のレベルを「しっかりと自分で頑張ればできる」というレベルに設定することです。最低目標をやっていくうちに自分の能力が上がってきて、意識を集中しなくてもできるレベルの目標になってしまうと、それはただのタスクになり、その日のやることリストを消していくだけのことで終わってしまいます。

優れた選手や結果を残し続けるビジネスパーソンは、自分の最低目標を次々と更新していきます。絶対にここまではやるという最低目標を高めていくことで、パフォーマンスの精度が高まり結果にぶれがなくなっていきます。そして彼らは、自分でコントロールできることを最低目標としてしっかりと言語化しています。そこにしっかりと意識を向けることで結果を導く可能性を最大限まで高めているのです。

もちろん最低目標を設定したからと言って、いつも最高目標が達成できるわけではありません。しかし掲げた最高目標に至らなかったとしても、今の実力でできることを自分で判断して“やりきること”が大切です。やり切ることが質の高い経験に繋がり、次に掲げる最低目標をより適切なレベルに設定できる技術が磨かれていくのです。

このように「最高目標」と同時に「最低目標」を設定することで、今もしくは次にやるべきことが明確になり、明確になることによって意識がキーポイントにフォーカスされ、ゴールを導くプロセスがどんどん進化していきます。それによって良い結果に結びつきやすくなります。

目標はダブルで持つことで「掲げる」ものから「使う」ものへと変わります。対となる2つの目標を設定するスキルを身に着けることは、諦めの気持ちを減らし、成長の実感を増やしていきます。ダブルゴールを設定し実践することで必ずあなたもダブルゴールの凄さを感じることでしょう。

次回は、目標の設定の仕方をさらに高めるためにしっかり理解していただきたい「 CSバランス」について詳しくお話ししていきます。

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このコラムは、布施努 著「自分の最高を引き出す考え方」から一部抜粋し作成しています。このコラムで記載された内容を、より詳しく事例や解説などをまじえてお知りになりたい場合は、ぜひこちらの書籍をご覧いただければと思います。
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