レアルマドリードを追い詰めた鹿島アントラーズの「チームノーム」

 2016年12月18日に行われたクラブ世界一を決定するクラブワールドカップ。世界の視線が向けられた決勝の舞台でヨーロッパチャンピオンの名門クラブ、レアルマドリードを土俵際まで追い詰めたのは、開催国枠で出場した鹿島アントラーズでした。


 延長戦の末に惜しくも敗退したものの、各国の代表クラスの選手を集めたスター軍団相手に大健闘したと言える結果です。しかし選手たちの口から聞かれたのはやり切った充実感というよりは、タイトルを逃した悔しさでした。「2位も最下位も同じ」、「本当に悔しい思いでいっぱい」。


 明らかに格上の相手との対戦であったにも関わらず、アントラーズの選手たちは『本気で』勝利しようと思っていたのです。その思いがいっぱいに詰まった100分を私たちに見せてくれました。ここまでの戦いを繰り広げたアントラーズが持っていたものは何か。

それは鹿島のサッカー、鹿島のスタイルの礎となる『チームノーム』だと感じでいます。

 『チームノーム』とは、チームで大切にしている行動や考え方のスタンダードでチームメンバーはそれを理解しそれに基づいて行動することを求められます。それは時間がたち洗練されてチーム文化となっていきます。鹿島のチームノームは、ジーコ監督の時代から継承されてきた『ジーコスピリッツ』が軸となっています。


・誠実 :自分に誠実であれ

・献身 :チームに献身であれ、

・尊重 :仲間をファミリーと思い尊重せよ


 この3つのキーワードをプロ選手の魂であると何度も伝えていたそうです。


 そしてもう一つ、ジーコ自身も強く表現していたのは

『勝利に対する執着心』 



 スポーツ心理学とグループダイナミクスの概念を取り入れた先駆者はパートリッジ博士とスティーブンス博士でした。そのお二人が『チームノーム』のチームにおける利点を以下ように整理しています。


1. ポジティブなチームノームは厳しいトレーニングなどの行動を容易にする

2. チームノームを理解し受け入れた選手は適切にお行動できる

3. 問題に直面してもチームノームの存在が解決に導いてくれる

4. チームノームが組織の価値を上げる

5. チームノームはチームを一つにまとめる


 鹿島アントラーズをベースに検証してみましょう。

どのような相手に対しても、負けたあとはジーコ自身が大変悔しがり、その姿に選手やスタッフは刺激を受けたそうです。相手の戦績、技術など関係なく、本気で勝つために力を尽くすことの大切さを、ジーコの言葉と表現によって、チームに浸透していったのでしょう。このチームノームはジーコがチームを去った現在も、選手・スタッフ・ファンに受け継がれているのです。


 ジャイアントキリング(格下のチームが誰も予想してない大番狂わせを起こすこと)に必要不可欠なのは、格下に対して本気になっていない状況の相手に対して、ほんの一瞬の隙を突くことです。決して多くは無いチャンスを必ずものにしなくてはなりません。鹿島はジャイアントキリングに必要な要素を、ジーコスピリットから会得し浸透させてきたからこそ、今回の結果を出すことができたのではないでしょうか。鹿島にとって今回のクラブワールドカップは、勝ちに対する執着心を最大限にサッカーで表現し、受け継がれたジーコスピリットの価値を証明した大会であったといえます。


 『チームノーム』はスポーツチームだけでなく、ビジネスシーンなどに代表されるあらゆる組織において、組織の力を発揮するために重要な要素です。チームノームが浸透することで、メンバーは何を軸に価値判断をすればよいのか、どのようなコミュニケーションが必要なのか、どう活動することがチームにポジティブな影響を与えるのかわかるようになります。それによって、メンバー一人一人がチームのパフォーマンスに寄与し、組織の団結力向上に繋がっていきます。チームノームの浸透には時間がかかりますが、リーダーが何度もチームへの想い、チームで大切にしたいことを熱く語り、表現し続けることが必要でしょう。